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【直木賞受賞作『私の男』】官能表現の裏には何が隠れてる?

 

第138回直木賞受賞作であり、映画化もされている衝撃作、桜庭一樹さん著『私の男』を読んで思ったことを語ります。

 

 

 

私は、いわゆる「官能小説」における官能表現の奥深さ、柔軟さ、幅の広さというものは、ほんとうにすごい!と思っています。

もちろん作品にもよるけれど、基本的にはごくごく最小限の「直接表現」で、あれだけ耽美な世界観を作り出せる、というのは、やっぱり並大抵のことじゃない。

なかでも、直接表現が極限まで削られて、厳選されて、ほぼ無いに等しいような作品は特に好きです。

隠されたお宝を探す、小さな子どもみたいな気分になる。
内容そのものに、というよりは、作者さまの極上の芸術的手腕に心を奪われてしまう。


個人的に、世の官能小説ファンの半分くらいは、単に「エロい」ものが読みたいというより、あの特殊かつ上質な芸術世界にひたりたくて読んでいるのでは…とさえ思っています。

一方で、世の中には「官能小説」ではないけれど官能表現の比率多めな小説というのもありますね。
そういった作品は、「官能表現」の裏に、ほんとうに伝えたい何かを隠しているのだと私は思っています。


この「私の男」は、まさにその代表格だと思います。

 

「私の男」は、どんなお話?

主人公の女の子、花は、9歳のとき震災で家族を失い、遠い親戚と名乗る男、淳悟のもとに引き取られる。

しかしながら、淳悟は、花の単なる親戚などではなかった。
彼こそが、花の実の父親。
花は幼いながらに、そのことを直感で理解している。

ふたりのあいだに育つ、どこか歪んだ愛情。
しかし、それは花はそれを、生涯、何より大事に抱えて生きてゆく。

 

互いに、何を求めていたのか

「実の父娘である」と互いに理解しながらも、ふたりのあいだに芽生えた愛情は、どんどんいびつな形へと変化していきます。


「愛」を守るために、ふたりは、人を殺めます。
それを失わないためなら、なんだってします。

 

「おまえも、大塩のじいさんを殺した。俺も、田岡さんを殺した。同じだな」

「うん、そうだね。おとうさんとわたしはおんなじ」

 

ふたりのしたことを、頭ごなしに否定するのも非難するのは、かんたんです。
というより、健康かつ健全にそだった人なら、誰でもそうするでしょう。


しかしながら…
このふたりのしたことは、思考は、信念は、ほんとうに常軌を逸した「異常」なものなのでしょうか?

花は、「家族」を求めている。
淳悟も、また「家族」を求めている。

「ほんとうの」家族を。

 

「…血っていうのは、繋がってるから。だからもしも俺の子がいたら、そのからだの中に、親父もお袋も、俺がなくした大事なものが、ぜんぶある。」

 

かわいた海風に吹かれながら、もっと強く手を握った。
すると、淳悟も痛いほどしっかりと握りかえしてきた。

この手を、わたしは、ずっと離さないだろう。


読んでいると、ときおりフィクションであることなどすっかり忘れて、息が詰まる。

これだけ真摯で誠実な愛情を、私ははたして知っているだろうか、現実で見聞きしたことがあるだろうか、この先、自分の手に抱くことがあるだろうか。そう思って。

間違っているとか、いないとか、そういう話ではない。

もちろん、ふたりのしたこと自体は、完全に法にも人道にも倫理にも反しているし、そこを擁護しようとはまったく思わないけれど、
少なくとも、ふたりが大切に守り抜いたものひとつは、まぎれもなく「尊い」ものであると思う。


これだけ「ひとりの人を愛しぬける」人間は、今の世にどれだけいるのでしょうか?


 

 

映画版もすばらしい

映画版では、二階堂ふみさんがヒロイン花を、浅野忠信さんが淳悟役を演じています。

私は先に小説を読んで内容も展開も知っていたので、
うわ、あれを映画でやるとなると…映像のインパクトがすごすぎて、原作の大事な部分が誤解されないだろうか…などと勝手な心配をしていたのですが、
完全に杞憂だったようです。

いや、すばらしかった!

スクリーンのなかに、たしかに花がいて、淳悟がいた。

見ていて息苦しくなる感じと、同時に抱いてしまう妙な羨望の念は、
原作を読んでいるときとまったく同じでした。


こんな小説には、作品には、やっぱりなかなか出会えないと思います。

 

 

皆さまもぜひ、読んでみてくださいね♪

 

 

 

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それでは、今日はこのへんで。