疲れたときほど本を読みましょう

文学とエンタメが日々の癒し。 好きな作品の感想や日々のあれこれをマイペースに綴ります。

MENU

【田村由美『7SEEDS』】近未来サバイバルSFの魅力と面白さ。

今週のお題「SFといえば」


あらゆる趣向のSFものが世にはあふれていますが、私にとってのザ・SFは間違いなくこれです!

今回は、『BASARA』や『ミステリと言う勿れ』などでも有名な田村由美さんの名作『7SEEDS』の面白さを紐解いていきたいと思います。

 

 

 

 

7SEEDS』かんたんあらすじ

7SEEDS」とは政府のあるプロジェクトの名前である。

学者らが「近い将来、巨大天体が降り地球は様々な災害に見舞われ、恐竜が滅亡した時と同じような状態になるであろう」と予測した。

人類の滅亡も危ぶまれるこの事態に、各国首脳らが極秘会議を重ねた結果、若く健康な人間を選んで冷凍保存し、地球が災厄に襲われている間眠らせ続け、やがて人が住める状態になったとコンピューターが判断したら解凍が行われて放出する。それがプロジェクトの概要である。

このプロジェクトに被験者として巻き込まれ、葛藤しつつ生存する人間たちの群像劇が描かれる。

 

(※ピクシブ百科事典より引用)

 

7seedsプロジェクトの概要をめちゃくちゃ簡単にまとめると、

「世界がいったん終わることがわかったので、とりあえず人類の存続のために生き残れそうな人材を適当に選んで、冷凍してみた。君らに未来を託すからなんとか頑張ってね!」

…みたいな感じです。

このプロジェクトに”選抜”された日本人は、計5チームの総勢40名(1チームあたり7人プラス監視役の計8名)。


春チーム、夏チームAとB、秋チーム、冬チーム。


身体能力、学力、容姿、健康状態(プラス親のコネなど…)、さまざまな要素から選ばれたメンバーが、これまでとは全く違う新たな世界で必死に生き抜こうとするザ・サバイバルSFなのです。

 

なぜ、夏チームだけAとBがあるのか?

実は夏チームのみ、他チームとは少々選抜理由が違います。

夏のA

春、夏B、秋、冬の4チームは事前に何の情報も与えられないまま、「眠っているあいだに勝手に体を冷凍され」て、新世界に来ていますが、夏のAは唯一「新世界」に関する事前情報を持った上で、このプロジェクトに参加しています。

彼らは全員、「優秀」と判断された精子卵子をかけ合わせてできた人間です。
当然親も兄弟もおらず、そのため誰も「名字」を持っていません。(つまり社会的な居場所、戸籍がない)


夏のA候補だった子どもたち(総勢30人くらい?)は、生まれた時からずっととある山奥の「施設」で暮らしており、このプロジェクトのためだけに「教育」されてきました。

夏のAチームのメンバーは、過酷なテストをパスして生き残った7名。(テストに落ちた人間は全員死んだ)。

そのため他チームに対する選民意識が非常に強いのが特徴です。
また「一般人」である他チームと違い、全員が「銃」を所持しています。

 

夏のB

あらゆる点で優秀な人間だけが集められた他チームと違い、夏のBはいわゆる「落ちこぼれ」の「問題児」(※作中の表現です)の寄せ集めです。

当初は優秀な人間だけを選んでいた担当者が「優秀な人間だからといって生きる力が強いわけではないのでは…?」とふと考え、「保険」として夏のBを追加したのです。

夏のBチームは、健康面は問題ないが、不登校、半グレ、殻にこもりがちなどいわば「社会不適応者」の集まり。

しかし、思いのほか他チームより「上手くやれている」面も多いのが、なかなか面白いところだったりします。

 

 

田村由美作品の魅力~追い詰められた人間の行動原理~

田村由美作品ではたいてい、「追い詰められた人間の心理・行動」が多角的な視点から描かれています。

この『7seeds』は、まさしくその最たるものではないかと個人的には思います。
というのは、『7seeds』には、いわゆる「主人公」というものが存在しません。

著者は、作中の総勢40名…いや、過去編や親世代を合わせると50人以上の人間ひとりひとりの視点から、この「7seedsプロジェクト」というトンデモ企画の在り様を、どんな細かな心情も省かない、見逃さない、執拗なほどの執念で描き出している。


加えて「人間模様」が痛々しいほどリアルなところも、田村作品の大きな魅力です。

50人余りの登場人物… 正直誰に感情移入してよいものかというのが最大の悩みどころですが、読み進めるうち、もはやそんなことはどうでもよくなってしまう。

誰かにとっての「正義」が、別の誰かにとっては完全な「悪」になりうる。


言葉にするとたったこれだけのことですが、作中ではこのために起きた「悲劇」が後を絶ちません。


ひどい世界に放り出されたからといって、
「まあこうなったからにはしょうがないし、ここにいる皆で仲良く生き残ろうか!」なんて甘い展開には、当然ながらならない。

わずかな食料や物品などの奪い合い、殺し合い、暴力での支配、レイプ(未遂)…などなど、作中では少女漫画とは思えないほど容赦のない展開が相次ぎ、つくづく一番怖いのは人間なんだなぁ…と、読者である私たちに生々しい現実を突きつけてきます。

(ここに関しては、やっぱり夏のAに武器を持たせたのが一番の間違いだったと思うよ…政府のお偉いさん方。
恵まれない世界で人に武器なんか持たせたら、人に向けるに決まってるのに)


痛みや苦しみ、時には恨みつらみ嫉みがこれでもかと描かれているのに、しかしそこにあるのが「絶望」だけではない…というのが不思議なところ。

まさに一流漫画家の絶妙な手腕を見た!という感じがします。

 

世界観こそ「SF」だけれど、描かれているのは現実を生きている私たちのことなんですよね。
だからこそ、「ありえない」世界観でありながら、リアリティは全く失われていない。


このすさまじい「未来」の世界は、『BASARA』で描かれた「未来の日本」にきっとどこかで繋がっているにちがいないと、個人的に固く信じています。


あ、もちろん、あくまでジャンルは少女漫画なので、ハード展開のみならずちゃんとラブ展開もありますよ!笑
人によって、また読み方によって、本当にいろいろな楽しみ方ができる作品だと思います。

 

皆さまもぜひ、読んでみてくださいね♪

 

 

 

 

それでは、今日はこのへんで。