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(ネタバレあり)東野圭吾『白夜行』ドラマ版は原作小説とどう違う?徹底比較!

東野圭吾原作『白夜行』。

このドラマ版の衝撃は本当にどれだけ時がたっても、まったく色あせませんね。
仮に人生でたった1本しかドラマを見られないとしたら、私は迷いなくこれを選ぶだろうと思います。


ただ、実はこのドラマ版、原作小説とはかなり視点や描き方が違うんですよね。

今回は、長年の『白夜行』ファンの視点から、ドラマ版と原作小説の比較、そしてドラマ版の魅力・見どころについてまとめてみました!

 

 

 

 

 

白夜行』かんたんあらすじ

1973年の夏、大阪のある廃ビルで起きた質屋殺し。何人もの容疑者が捜査線上に浮かぶが、決定的な証拠がないまま時は流れていく。

 

当時小学5年生だった被害者の息子・桐原亮司と、ある容疑者の娘・西本雪穂は、何かを抱えながらもその後の人生をそれぞれに歩んでいくかに見えた。

しかし、二人の周囲では一見関連性のない不可解な事件が次々と起きる。

 

エビとハゼ…実は二人の関係は決して交わることのない“共生関係”であり幼い頃に失った心を補完し、生きていくための犯罪行為を互いに幇助し合っていたのであった。

質屋殺しの事件に疑念を抱く刑事はそうした二人の一連の動きやそれぞれの関与に少しずつ気づき、二人の周辺の人物による証言や調査により真相に迫っていく。

 

やがて亮司と雪穂それぞれが関与した可能性があるとみられる他殺体の発見から亮司に司法の手が伸びる。 そのころ雪穂の新しい店が大阪でオープンとなり、亮司は販促のアルバイトとして店の近くにいるところを警察に発見され追い詰められた。 そして亮司は逃亡したが死亡、雪穂は無関係を装って去っていくのであった。

引用元:Wikipedia

 

 

上記あらすじをざっと見る限り、この作品は形としては「ミステリーの王道」なのだとお分かりいただけるかと思います。

大阪で起きた質屋殺し。
事件周辺に「偶然」いた、2人の子どもの存在。


被害者の息子と、加害者の娘ーー本来ならば、関わり合いになるはずのないこの2人、亮司と雪穂。
そして、2人の足取りを執拗に追いつづける刑事。

ミステリーというものの主題・主軸とは文字通り、ストーリーに含まれる「謎」の部分ですね。

白夜行』のように事が殺人事件であるなら、この「謎」は本来「誰が殺したのか」、「なぜ、どうやって、何の目的で殺したのか」というところになるはずです。

しかし『白夜行』における「謎」、つまり著者が最も描きたい部分というのは驚くべきことに、もはやここではないのです。

白夜行』の主題とは?

では、『白夜行』の主題はいったい何なのか?

それは、上記あらすじの言葉を借りるなら「エビとハゼ」、つまりは被害者の息子と加害者の娘のあいだに生じ、そして事件後もずっと続いた「共生関係」の部分です。

なぜ、そんなふうに生きたのか?
なぜ、そんなふうにしか生きられなかった?

被害者の子どもにだけ、あるいは加害者の子どもだけに焦点を当てた物語というのはわりと多いように思いますが、被害者と加害者の子ども両方に焦点を当てているというのは、なかなか珍しいところですよね。

そして彼らの「共生関係」ともなると…うーん。(脱帽)

もちろん、この2人の関係性というのはそのまま「誰が殺したのか」、「なぜ、どうやって、何の目的で殺したのか」という部分に通じているわけですが。
しかし、その単純な問いの答えが得られたからといって、「共生関係」の真髄まで理解できるとは限らない。

 

やはり『白夜行』が唯一無二である所以は、この痛みや歪みを孕んだ「共生関係」の部分なんだろうなあと個人的には思いますね。

 

それでは、この「共生関係」の描き方が、原作小説とドラマ版とではどのように異なってくるのかまとめていきたいと思います。

 

原作小説の特徴

白夜行』原作小説の特徴として目立つのは、

・とにかくストーリー展開が淡々としている
・登場人物の感傷、感情面といった部分がほとんど表現されていない

というところだと思います。

 

前述したとおり、被害者の息子・亮司と加害者の娘・雪穂のあいだにはなんと生涯にわたる「共生関係」が続いていたわけですが、驚くなかれ、原作小説内では、この2人が直接的に関わりをもつ場面は一度たりとも描かれていません。

 

会話どころか、ちょっとしたすれ違い、ニアミスすら、本当に一度もない。
著者は徹底的に、この2人を「俯瞰」で描くことに専念しています。

 

それなのにどういうわけか、読者はこの2人の「繋がり」を痛いほどはっきりと感じ取ることができる。
白夜行』最大の謎は、実はここなのかもしれないなぁと思います。

 

相手のために、それぞれがどんな罪を犯したのか。
作中でそこを明言している箇所はほぼ無いに等しいのに、たしかに作品内にはそれがしっかり書かれているのです。

 

白夜行』を読んでいると私は時々、「あれ?自分は今、いったい何を読んでいるのだろう?」と思うことさえあります。

言葉にされていない言葉が、ページの空白部分からどんどん伝わってくるような気がして。
行間を読む、とはまさしくこういうことなんじゃないのかなと思いますね。

 

 

ドラマ版の特徴・見どころ

小説は読んでないけどドラマは見たよ~!という方も多いんじゃないかと思います。

名作『世界の中心で、愛をさけぶ』に引き続き、山田孝之さんと綾瀬はるかさんの名タッグにより「視覚化」された『白夜行』の世界には、原作とはまた違う味わいがあり、まさに眼福でした。

 

ドラマ版の特徴

小説版の特徴として「2人が直接的に関わりをもつ場面は一度たりとも描かれていない」と書きましたが、ドラマ版ではむしろ真逆。

亮司と雪穂、この2人の幼少時の出会い、別れ、そして再会…

小説版では”あえて”伏せられていた部分が、ドラマではひとつ残らず、包み隠さずに表現されています。

「もう、亮くんは被害者の息子で、私は加害者の娘です。私たちが仲良しなのはどう考えてもおかしいし、それがばれたら、きっとすべてが無駄になってしまう」

(※ 幼少時の雪穂)

 

「もう一度、太陽の下を亮くんと歩くんだよ。」(再会後の雪穂)

 

「あたし間違ってるんだよね?人の幸せを壊してやりたいって思ってるのは、間違ってるんだよね?」(大人になった雪穂)

 

 

ドラマ版の最大の特徴は、小説版と違い、亮司と雪穂の2人が「血のかよった生身の人間」として描かれている、というところだと思います。


あとになってから、ドラマプロデューサーが「亮司と雪穂をモンスターにしたくなかった」と雑誌のインタビューでおっしゃっていたことを知り、あぁ、やっぱりなぁ…と納得しました。

ドラマ版では、視聴者が亮司と雪穂にちょっと感情移入、あるいは肩入れしてしまうような作り方がなされているのですよね。

 

世間的にはれっきとした「犯罪者」である2人をそんなふうに描き出すのには、やはり作り手側に相当な意識がなければ、絶対に不可能なことでしょう。

 


しかしこれだけ原作との描き方が違うので、もしかしたら原作ファンの方には「原作に忠実じゃないから好きじゃない」という人もいるんじゃないかなと思います。

その点、映画版(堀北真希さんと高良健吾さん出演)のほうが原作に忠実な作りがされているので、まだみていないという方にはおすすめです。

 

 

ラスト、雪穂は亮司を「見限った」のか?

原作の小説でも、ドラマ版でも、ラストの展開で、雪穂は自分を守るだけ守って死んでいった男・亮司に背を向けて去っていきます。

彼女はいったい、どこへ向かったのでしょう。
あれだけの想いを向けてくれた亮司を「見限った」のでしょうか。

少なくともドラマ版では、そんな辛辣な描き方はされていません。

 

雪穂(綾瀬はるか)はラスト、亮司の死体(と警察)に背を向けて、涙を流しながら去っていきます。ただひとり、亮のことだけを思いながら。

しかし、原作者 東野圭吾さんは小説のラストシーンをそういう意図で書かれたのかどうかというところになると、やっぱり疑問が残るんですよね…

何せ小説では、雪穂はどこまでも非の打ちどころのない「悪女」として描かれているので。
たとえ相棒の亮司がいなくなったとしても、それを踏み台にしてあっさり次のステージにいっちゃいそうな強かな雰囲気が、原作の彼女にはあります。

 

白夜行』と『幻夜』との関連性は?

余談ですが、東野圭吾ファンのあいだでは、同じく東野圭吾作品『幻夜』に登場するミステリアスな女性・美冬の正体が、この『白夜行』の雪穂のその後の姿なのではないか、という一説があります。

まぁ著者がそれを肯定しているわけでもないので何ともいえませんが、『幻夜』を読んだ限りでは「うんまぁ…ありえない話じゃないな」と思いました。

 

白夜行』原作では亮と雪穂、2人の関わりはまったく見えませんが、『幻夜』では美冬の残酷さ、どんな目的でどんなことをしたのか…という部分がすべて読者にはっきりわかるように描かれています。

 

もしかしたら『白夜行』は、『幻夜』という作品の存在をもって初めて「完結した」と言えるのかもしれませんね。

 

 

 

 

劇中BGMもすばらしい

ドラマ関係なく、ふつうに日常で聴きたくなる。

Youtubeで聴けます!

 

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それでは、今日はこのへんで。