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中島らも・人生のエッセイ『その日の天使』~ The day's divinity, The day's angel~

今週のお題「人生最大のピンチ」


本好きな人なら、「この人の書いたものがこの世にある限りは、まぁ何とかやっていけるかもなぁ…」と思うくらい熱狂的に好きな物書きさんが、ひとりやふたりくらいはいるんじゃないかなと思います。

私にとって中島らもさんはその最たる人です。

いわゆる天才肌という感じで、小説にエッセイ、コント・脚本、俳優業、音楽などなどとにかく多才な らもさんですが、数ある作品の中でも、人生のエッセイシリーズ『その日の天使』がなんだかんだで一番好きかもしれません。
ピンチ… 恐怖とか苦難、痛みのことを、なんであんなふうに書けるんだろうか。

 

 

表題作『その日の天使』 The day's divinity, The day's angel

ジム・モリソンのとある詞に出てくる言葉「The days  divinity, the days  angel」を、らもさんはこんな風に解釈しているそう。

「その日の神性、その日の天使」。

つまり、一人の人間の一日には、必ず一人「その日の天使」がついている…ということだそうです。


もちろんその天使は、天使の姿などしてはいません。


少女であったり、子供であったり、酔っぱらいであったり、警官であったり、生まれてすぐに死んでしまった犬の子であったり。(本文より)

 

心身ともに好調なときは、これらの天使はなかなか目には見えないが、不調なとき、絶望感に満ちているときは、この天使の存在に気がつきやすいのだとか。

たとえば、ものすごく暗い気分になってふっと死を考えた瞬間に、もう何年も付き合いのなかった知人から突然電話がかかってくるとか、何気なくつけたテレビからふと聞こえてきた言葉に、自分でも驚くほど救われてしまうとか、そういうことですね。
あっ…、うん、まだ何とか生きていけるわ~と思える瞬間。


ちょっとした笑える失敗から、どうやって取り返せばいいかわからないレベルの大失態まで、人生には「ピンチ」なんていくらでもある。

でも、らもさんのエッセイではほとんどの場合、ピンチはそのままピンチとしては描かれていないんですよね。

鬱病に躁病、アルコールや薬漬けの日々、希死念慮、睡眠時幻視…
なかなかの体験がすべて、なかなかの体験としては書かれていない。
どこまでもからっとした口調(文体)で綴られているので、読者はそれを「ピンチ」だとは捉えない。
書かれていることそのものより、実はそれが何よりの魅力なのかもしれません。

 


自分にとって「今日の天使」は、何だろう?
このエッセイ集を読んでからというもの、いつも一日が終わるたび、そんなことを考えるようになりました。

 

いつか「人生最大のピンチ」を迎えたときも、この言葉「The day's divinity, The day's angel」を胸に、何とかやり過ごしたい。

 

皆さまの「今日の天使」は、何でしたか??

 

 

それでは、今日はこのへんで。