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エレファントカシマシの『あなたのやさしさをオレは何に例えよう』を聴いて歳を取ることが少しだけ怖くなる

このところエレファントカシマシの好きな曲ばかりをエンドレスでくり返し聴いています。
それは、エレファントカシマシが現在35周年ツアーの真っ最中なため、Twitterのトレンドにほぼ毎日宮本浩次の名前が入っているから浮かれているのではないかと言われたらそれまでなのだけども、
やっぱり好きな曲というのは気分をいい感じに上げてくれるものなのだなあとあらためて実感する今日この頃。

 

 

 

エレファントカシマシの隠れ名曲『あなたのやさしさをオレは何に例えよう』

どんなバンドにも、世間に広く認知されているヒット曲の裏で、主に熱心なファンの人たちを中心にひっそり愛されている隠れ名曲というのがあるのではないでしょうか。


もちろんファン目線で語るならエレカシの曲なんてどれも名曲に他ならないのだけれど、強いて言えば『あなたのやさしさをオレは何に例えよう』がそれに当たるのじゃないかと個人的には思うのです。


エレファントカシマシと言えば恋愛ソングは作らないし歌わないというのは、特にデビュー当時~初期にかけてはとても有名な話なんですよね。まあ年が経つにつれてそんな傾向は少しずつ薄れてきたような気もするけれど、それでも初期の頃の、世間体とか建前だけで凝り固まった価値観みたいなものに全身全霊で抵抗しているような激しさは最近の曲の端々にきちんと残っている。


私はエレカシを知った当時からずっと『あなたのやさしさをオレは何に例えよう』という一曲がとても好きで、でもこの曲を初めて知った当初はまだ十代で、何も分かっていない子供だったので「ああこれは多分大人っぽい落ちついた恋愛の歌なんだな」などとのんきなことを思っていました。

要は歌詞に登場する「あなた」は「オレ」の恋人的な存在で、激動の日々を「あなた」に助けられている、救われている…という、JPOPになんともありがちな表現描写なのではないかと。

 

しかしながら最近になってこの曲を聴くと、あの頃の自分は本当に何も分かっていなかったんだなと思って恥ずかしくなります。

曲タイトルの「あなたのやさしさをオレは何に例えよう」という言葉の直前の「敗北と死に至る道が生活ならば」という一フレーズを完全に聴き流してしまっていたし、そもそもそこにひっかかりを覚えたことすら一度もなかった。

 

「敗北と死に至る道が生活ならば」

普通に生活を送ることの延長線上にあるものが、敗北すること、そして死である、ということをロック歌手が歌詞にして歌うというのは、ある意味ではとても腑に落ちる部分もあるのだけれど、それでもやはりすごく挑戦的な面も大きいと言えるのじゃないかと思う。

誰もがなんとなく分かっていて、でも絶対に口にしないようなことをすごく自然に歌詞の中に入れ込んでなおかつ自然に歌い上げてしまうような思い切りの良さ、恐ろしさこそが、実はエレファントカシマシの底知れなさの正体なのではないかと、やっぱり最近になってあらためて思うのです。

こういう歌詞を、例えば50代60代のベテランの作詞家がさらっと書いて若い歌手に提供して歌わせちゃっているというならそれもわかるけれど、
この歌は30代当時の宮本浩次が作詞作曲をしていて、そしてびっくりするくらい穏やかに歌い上げている。それが本当にすごいと思う。

 

むりやり自分ごとに例えるなら、
たとえば私はh.NAOTOというブランドの服がとても好きで、憧れがあって、
でもデザイン面からすると絶対に日常使いには向かないし、また経済的にもやさしくはないしそもそも本当にどこに着ていくんだと思うので、長年公式サイトを眺めるだけで満足しているところがあります。

しかしエレファントカシマシの「あなたのやさしさをオレは何に例えよう」を聴いていると、自分がこういう服に憧れがあったんだなあということをふと思い出してしまったりもするのです。

人目とか体裁を無駄に気にして、本当に着たい服も着ないまま「敗北と死」を迎えてしまって、それで本当にいいのか。…いいのか?と、言外に何度も問われているような気がする。

 

多分この曲に登場する「あなた」というのは「敗北と死」の対極に存在する「何か」であって、その正体は人によってそれぞれ異なるのだと思います。
なお、この曲はこれだけ革新的な歌詞なのに曲調はとても穏やかでノスタルジックといっても良いほど優しいものなので、聴いているとやっぱり「癒されて」しまうのが恐ろしい。

 

敗北と死に至る道が生活ならば

あなたのやさしさをオレは何に例えよう

 

「あなた」が何を意味するのかは、おそらくこの先自分の状況や心境しだいでいくらでも変わっていくものなのでしょう。
「生活」から逃れることはできないが「あなたのやさしさ」からは目を逸らしてはいけないし、見なかったことにしては絶対にいけないんだろうなあ…としみじみ。



もっとも曲の解釈自体も人それぞれではありますし、曲タイトルの通り「やさしい歌」と捉えても全然かまわないのかもしれませんが。

ライブに参戦できなくとも、これからもひそかにエレカシを応援していきたいなあとひそかに思う連休の夜なのでした。

 

annemonne.com

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