今回は有名童話シリーズ「モモちゃんとアカネちゃん」をご紹介します。
「モモちゃんとアカネちゃん」シリーズとは?
2、モモちゃんとプー
3、モモちゃんとアカネちゃん(赤い鳥文学賞)
4、ちいさいアカネちゃん
5、アカネちゃんとお客さんのパパ
6、アカネちゃんのなみだの海(野間児童文芸賞)
「モモちゃんとアカネちゃん」は、上記の6冊からなる童話のシリーズです。
著者は松谷みよ子さん。
1作目「ちいさいモモちゃん」が生まれたのは、幼い娘さんから「わたしが赤ちゃんだったときのおはなしをして」とねだられたのがきっかけだったそうです。
”童話”の概念を打ち壊す童話
人生における三大ストレス
「モモちゃんとアカネちゃん」シリーズ内では、「離婚」という概念とそれにともなうさまざまな出来事が、幼年童話の形でどこかファンタジックに描かれています。
たとえば、「ママ」と「パパ」のすれちがいーー
夜になると、玄関に靴だけが帰ってくる、という表現や、「ママ」のもとに夜な夜なおとずれる「死に神」。
パパは「あるく木」で、ママは「そだつ木」である…、だから、どうしたって、これ以上同じ鉢のなかに一緒にいることはできない。
人生における三大ストレスは、「身内の不幸」「結婚(離婚)」「引っ越し」だとかいわれていますよね。
この「モモちゃんとアカネちゃん」シリーズでは、その三要素すべてが、ていねいに、そしてリアルに描かれています。(離婚→引っ越し→パパの死)
パパのいないさびしさ
当シリーズは、基本的には掌編を集めた構成になっているのですが、
じっくり読んでいくと、「父親不在のさびしさ」「離婚にともなう喪失感」みたいなものが作品の根底部分に静かに存在しているのがわかります。
「パパがいない」「なぜいないの」ーー。
ママ、モモちゃん、アカネちゃんの三人のうち、この感情をいちばん強く抱いているのは、当然、パパとママが別れたときまだ赤ちゃんだったアカネちゃんです。
「パパにあいたい」「どこにいるの」ーー。
そんなアカネちゃんの前に、作中で何度も、パパは現れます。オオカミの姿をして。
この「オオカミの姿」というのが、またとても印象的です。
ママと別れたパパは、もちろんアカネちゃんの「パパ」ではあるが、もう、以前と同じパパではない。
もう同じ家に住むことはできないし、「ママの夫」ではないのだから。
その、なんとも複雑な空気というか、感覚が、読んでいて、ひしひしと伝わってくるんですよね。ほんとうに胸が痛くなる。「童話」なのに。
「死」をえがいた児童書
また、作中では「離婚」につづき「死」という重い概念も、とてもくっきりとリアルに表現されています。
離婚の直前、ママのもとに毎夜おとずれる「死に神」の姿、言葉、たたずまいは、ほんとうに暗くて、不気味です。
童話だからといって、ファンタジー風に明るくごまかされたりはしていない。
「人生の暗い部分、重い部分」が、容赦なく表現されていると思います。
そして離婚後も、ときおりママのもとにふと現れる死に神。
今度は、暗くおぞましい影としてではなくて、いかにも親しげな、まるでずっと昔からの友だちみたいな顔をして。
最終巻『アカネちゃんのなみだの海』にて描かれる「パパの死」。
モモちゃんとアカネちゃん、ふたりの女の子が「長いこと離れていた父親の死」に、真摯に向き合います。
ただ泣きつづけるモモちゃん。(『モモちゃんのなみだの海』)
「パパをうめるの」と、シャベルを買いにいくアカネちゃん。(『アカネちゃんの赤いシャベル』)
「モモちゃん」シリーズは実は「実話」に近い
当シリーズがこれだけリアルな痛みをはらんでいるのは、文字通り、この作品の内実がきわめて「実話」に近いものだからであると思います。
著者の松谷みよ子さんには、作中の「ママ」同様、ふたりの娘さんがいらっしゃいます。
そして、「ママ」が長女モモちゃんを保育園の「赤ちゃん部屋」にあずけたように、
子育てに手の回らなかった松谷さんも、満1歳の娘さんをあずけたそう。
いま現在なら、子どもをあずけて仕事に出ているお母さんなんてめずらしくないけれど、当時はそうではなく、
「保育園なんてどうにもならない子の行くところよ」
「そんな小さな子をよそにあずけるなんて…」
そういう偏見も、とても多かったそうです。
しかし松谷さんは、娘さんが集団生活のなかでりっぱに育って、成長していく姿に大きな感動をおぼえ、だからその姿を書き留めておきたかったと、最終巻あとがきにて記されています。
また、次女アカネちゃんのモデルは、離婚により1歳半で父親と別れることとなった、松谷さんの下の娘さん。
作中のオオカミの姿の「パパおおかみ」は、
「パパはおおかみなの。さびしいおおかみなのよ」という娘さんのつぶやきから生まれたそうです。(最終巻あとがきより)
(ちなみにですが、松谷みよ子さんの元夫 瀬川拓男さんは、当シリーズの表紙のデザイン構成にたずさわっておられました。)
そして作中の「おいしいものの好きなくまさん」は、松谷さんがお忙しくてお子さんの相手が十分にできない時期、手を貸してくれた多くのご友人のことだそうです。
当シリーズは「童話」「お話」とは思えないくらいリアルで、時には手で触れられそうなほどのするどい痛みや、もしくはやさしさ、温もりを感じさせてくれます。
このように、ほとんどの登場人物が実在する人物にちなんでいるからというのも、その理由の一つなのかもしれません。
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それでは、今日はこのへんで。