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【映画】「冷静と情熱のあいだ」ネタバレ感想 原作小説の魅力、そしてタイトルの意味とは?

映画「冷静と情熱のあいだ」を観ました。

とにかく映像が綺麗で、海外の街並みならではの美しさがあって、壮大さもあった。
海外の街並みって、一目で日本じゃないと分かるのはなぜなんでしょうね。日本みたいに電線だの看板だのが張り巡らされていないためでしょうか。映画さながらの風景を日常的に味わえるのが素直に羨ましい。

哀愁漂うストーリー然り、合間合間に流れるエンヤの優美さも然り、どこまでも洗練された世界観を味わえる一作です。

 

 

 

 

 

 

 

冷静と情熱のあいだ」あらすじとキャスト

大学を卒業後、絵画の修復士を志しイタリアフィレンツェの工房で学んでいた阿形順正(あがたじゅんせい)は、同じフィレンツェに住む芽実(めみ)という日本人の彼女にも慕われ、周りの人々からは一見順調な人生を歩んでいるように見えた。しかし、彼の心の中には常に空虚感があった。香港からの留学生で、日本での学生時代をともに過ごし、深く愛し合いお互いを分かり合えた女性、あおいをいまだ忘れられなかったのだ。

出典:Wikipedia

 

作中で阿形順正を演じているのは若かりし頃の竹野内豊さん。そしてお相手のあおい役はケリー・チェンさん。

リー・チェンさんについてあまり存じ上げなかったのですが、香港の女優さんなんですね。ものすごく背が高くそしてお綺麗で、モデルさんかな?と思っていましたが、肩書は「歌手・女優」になっています。

あおいはハーフで、日本にも日本人の家族にもなじめなかったという設定であるため、ケリー・チェンさんのビジュアルとちょっと人を寄せ付けないような雰囲気がいかにもぴったりだなあという印象でした。

 

原作小説の魅力とは

当作品は作家 江國香織さんと辻仁成さんの共作である原作小説がもととなっています。
赤(あおい視点)と青(順正視点)の2本立てで、合わせて読むも良し、あえて一方の視点のみを楽しむも良し。

私は映画を観る前にすでにこちらを読んでいて、粗方のストーリー展開は把握していました。赤も青もどちらも楽しめましたが、小説版では映画と違い、ラストに結局二人がどうなるのかを読者に委ねている部分が大きいなと感じた印象があります。

当然ながら小説版では、映像では伝わり切れない、あるいは表現しきれないような細かな心情まで丁寧に描写されているため、読者にもあおいと順正 双方の真意が伝わりやすい。だからこそ、ラストに結局二人が元通り幸せになれるのかという部分だけは、あえてぼかす形におさめたのかもしれませんね。

 

逆に映画版では、その部分が視聴者にはっきり伝わるように明確に描かれています。

ラスト、あおいを追っていった順正が「間に合った」シーン、そして雑踏の中目が合って笑い合うシーンはとても象徴的で、映画版のファンにも評判です。
あの印象的なシーンがあるからこそ、この「冷静と情熱のあいだ」はハッピーエンドである、と捉える人が多いのだろうと思いますし、だからこそ映画→小説の順でこの作品に触れた人は「印象が違う」と多少戸惑う場合もあるのかもしれません。

 

原作小説のラストは読み方によっては明確な「ハッピーエンド」とは言えないのかもしれませんが、私はどちらかというと原作の終わりのほうが好きですね。

ラストに通ずるあおいの(というより主にあおいとマーヴの)悲恋が小説で全編を通して長く描写されているからこそ、ラストだけハッピーであるよりは多少ぼかされているほうが、読者としてはしっくりくる気がします。

 

ただ気の毒なのはあおいのお相手マーヴですよね。映画では彼の心情などはあまり描写がなく、わりにさらっと流されている感さえありましたが、傍から見れば彼はいわゆる「当て馬」とも言えるのでは…

 

 

 

感想 タイトル「冷静と情熱のあいだ」は何を意味するのか

小説を読みつつ、そして映画を見ながらも、タイトルの「冷静と情熱」は一体誰の心情なのだろうと思っていました。

あおいと順正二人の恋愛そのものが冷静さと情熱の足りない、どっちつかずの不安定なものであるという意味なのか、あるいは「冷静」と「情熱」がそれぞれあおいと順正をあらわしているのか。

 

もちろん正解はありませんが、個人的には後者の解釈がしっくりくるなあと思っています。
小説を読めば感じることですが、あおいという女性は過去の恋人である順正に対しても、そして現在の恋人であるマーヴに対してもきわめて「冷静な」態度を取り続けているところがあります。

 

ーー出ていってくれ。

出ていかせないで。あのときもいまも、その言葉は、でも頑として、唇の外には出ていかない。

恋人であるからと言って決して甘えず、媚びることもない、至って冷静な態度。そんな彼女が唯一、内心で情熱を向け続けているのが過去の恋人である順正の存在です。

 

たとえ彼の父とのことがなかったとしても、堕胎の経緯が違っていたとしても、結局当のあおいが「冷静」であるかぎりは、順正との仲は一度は終わっていたのだろうと思います。
そんなあおいが初めて「情熱」を表面に出したのがまさにラスト、過去の「約束」を果たすためにドォウモへわざわざ足を運んだときだったのではないでしょうか。

約束の相手である順正が来るとは限らない。そもそも忘れている可能性も高いわけですし。来ないかもしれない相手との約束を守るために、行動を起こす。これが情熱でなくて何でしょう。

 

私があおいに肩入れして読んでいるのもありますが(同性なので)、やはりタイトルの「冷静と情熱」はあおいの内情を指しているのではないのかなと思いました。

順正は、個人的には冷静さよりも情熱にもとづいた言動や行動が多い印象があります。「冷静さ」を欠いていたからこそ、堕胎をしたあおいを一方的に責め、感情のまま別れることになってしまったわけですしね。

 

一方でマーヴは… あおいに似合う「冷静」な男性であり、まさに理想の恋人としてやたらきらきらしく描かれている印象があります。
もしかしたら彼があおいとうまくいかなかった原因は「冷静」すぎたからなのかもしれない。磁石の同じ極が反発し合うように、マーヴはあおいに「近すぎた」からこそ、最終的には別れを迎えてしまった。

 

単純な恋愛小説、恋愛映画という以上に、一人の人の心情や内実を細かく追及しているところがとても魅力的な作品でした。小説と映画、交互に楽しむのも良いかもしれません。

ちなみに小説は赤と青を一編ずつ交互に読むとより双方の感情が分かりやすくなると言われていますね。一度やってみる価値はあるかもしれない。(ちょっと…いやかなり面倒ですが笑)