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内澤旬子『飼い喰い――三匹の豚とわたし』感想 三匹の子豚を自ら飼育し、自ら食す。

イラストルポライター内澤旬子さんの著書『飼い喰い――三匹の豚とわたし』を読みました。すごかった。色々とすごかった。

 

私は普段小説ばかりを読んでいてノンフィクションものはそんなに読みませんが、これは本当読んで良かったなあと思います。単純に読み物として面白いという以上に、得るものがすごく大きかったので。

 

 

 

 

 

 

飼い喰い――三匹の豚とわたし』内容

自分で豚を飼って、つぶして、食べてみたい――。世界各地の屠畜現場を取材してきた著者が抱いた、どうしても「肉になる前」が知りたいという欲望。廃屋を借りて豚小屋建設、受精から立ち会った三匹を育て、食べる会を開くまで、「軒先豚飼い」を通じて現代の大規模養豚、畜産の本質に迫る、前人未踏の体験ルポ。

引用元:岩波書店サイト

 

感想

内澤さんと言えば、『ストーカーとの七〇〇日戦争』の印象が強いです。ストーカー犯罪の実体験を赤裸々に綴った本書は「週刊文春」に掲載され、当時は強い反響があったそう。

ノンフィクション作家という名の通り、現実の生々しさを全く飾らず、少しもオブラートに包むことなくさらけ出している作風がとても印象的で、この『飼い喰い』もジャンルこそ違いますが例に漏れずという感じ。いやいや…えっ?と驚かされる展開が続きます。

 

三匹の子豚を飼って、育てる

タイトル「飼い喰い」の通り、いきなり「喰う」のではなく、まずは飼って育てるところから。三匹の子豚を飼い、愛情をもって育て上げる内澤さん。

動物に対して愛情を注ぐというのは、いずれ食肉となると決まっている場合は特に、プロでなければなかなか難しいと聞きます。万が一にも情が移ってはいけない。しかし責任もって育て上げる以上、ある程度の情は必要だったりもする。

だからこそ食用の動物に名前をつけてはいけないというのは、おそらく日本に限らず全世界共通の暗黙の了解なのではないでしょうか。それはそうだ。名前をつけるという行為は対象に個性があること、つまり世界で唯一の存在であることを認めるというわけで、情が移らない方がおかしい。

しかし、この掟(?)を全く意に介さない内澤さん。三頭にそれぞれ名前をつけ、愛をもって大切に育てます。

 

育てた豚を食す

赤ちゃんから育てた豚を、自分の手でころして、自分で食す。しかもその道のプロでもない一般人が。こんなことはなかなかない。

 

帰って来てくれた。夢も秀も伸も、殺して肉にして、それでこの世からいなくなったのではない。私のところに戻ってきてくれた。今、三頭は私の中にちゃんといる。これからもずっと一緒だ。たとえ肉が消化されて排便しようが、私が死ぬまで私の中にずっと一緒にいてくれる。

 

育てた豚を食べた瞬間、筆者は「帰ってきてくれた」と感じたのだといいます。

三匹はもうこの世に肉体としては残っていないけれど、自分の中にたしかにいる、と。これはとても興味深い感覚だなと思いました。普段スーパーで肉を買い、何の労苦もなく口にしている私たちには到底理解できない感覚でしょう。

 

本書を通じて筆者が最も伝えたいメッセージは、おそらく「命をいただくことの大切さ」というようなありふれたものではないのだろうと思います。いや、もちろん食の恵みに対する感謝は大切ですが、それはもう言うまでもないことで。

私たちは日々、当たり前に命をころして、生きている。そこに感謝はともかく、必要以上の哀れみとか、悲しみがあるのはむしろおかしい。屠畜にたずさわる人たちを残酷と評するのはおかしい。

代表作『世界屠畜紀行』にて、世界中の屠畜の現場を見てきた著者からすれば、屠畜について必要以上の感傷を抱くのは「おかしい」ことで、動物に対しても「失礼」にあたることなのでしょう。こういった傾向は、海外よりも日本のほうが強いらしい。

日々ものを食べている私たちは、憐れむよりも先に、まずは生きているものが食べ物に変わる過程を知らなければならない。物事の真髄を理解するためには、まずは知らなくては始まらない。

命をいただけるということは、有難いことであり、また自然の営みであり。食べることは体をつくることの原義としてあり、感謝しながら、自然のものとして受け入れるのが正しい。

 

 

ちなみにこの三匹分のお肉は、筆者主催のイベントで大勢の参加者にふるまっているという。。笑 
いや、すごいね。今度は『世界屠畜紀行』のほうもぜひ読んでみようと思います。

 

 

 

 

 

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それでは、今日はこのへんで。