野島伸司さん脚本のドラマ「高校教師」(1993年版)を、アマプラで久々に見ました。私はこの世代ではなく、当然リアルタイムでは見ていないのだけれど、なぜか定期的に見たくなる(そして鬱感にどっぷり漬かりたくなる)作品の一つです。
最近のドラマを否定するわけではないけれど、やっぱり一昔前のドラマのほうが人の感情の機微を細かく拾っていく表現や演出が多い気がします。
ザ・情報社会と言われる現在は、瞬時に全世界と繋がることのできる端末を誰もが所持していて、あらゆる分野においてスピード感や利便性ばかりがピックアップされて評価を得ていく時代です。人の感情、人情と呼ばれるような部分はそれほど重視されていない。エンタメにおける表現も、時代に応じた変化を遂げていくのは当然のことなのかもしれませんが…
この「高校教師」作中では、一般にはタブー視されているような問題や事柄があらゆる形で表現されています。放送当時から賛否両論だったと聞きますが、それでも非常に見ごたえのある、そして長く心に残る作品であることには間違いないと思います。
ここからは第1話に関する個人的な感想をまとめています。
※ネタバレあります。
「高校教師」放送 キャスト(メインのみ)
細かく拾っていくとキリがないので、とりあえずはメインキャラの5名のみ。
初見では、羽村先生こと真田広之さんはそんなに教師っぽくないし(若々しくかっこいい上に言動や行動が大学生っぽい)、一方で17歳の設定である繭こと桜井さんは大人っぽすぎやしないか… などと思っていましたが、ストーリーが進んでいくうちに、いや、むしろこんなにキャラクターにマッチしたキャスティングはないのでは?と思うようになりました。
あと単純に、並んだ時にすごく絵になりますよね。羽村先生と繭は。
他の脇役的にちょこっと登場するキャラクターについては、またおいおい触れていきたいと思います。
第1話「禁断の愛と知らずに」内容
・大学院助手をしていたが、ひょんなことから女子高の教師をすることになった羽村。始業式の朝、駅で期限切れの定期券を使用したため駅員に咎められていた二宮繭を助ける。
第1話は、完全に羽村先生と繭の出会いが軸となったストーリー展開でしたね。
サブタイトル「禁断の愛と知らずに」の通り、まだまだ惹かれ合う前段階という感じ。
とはいえ1話目からすでに不穏な雰囲気は立ち込めていて、出だしから視聴者にいろんなことを予感させる見せ方になっているなあと思いました。(リアルタイムで見てた人、楽しかっただろうな…)
感想
駅での出会い「あたしが全部守ってあげる」
1話で一番印象に残ったのはやはり序盤の繭の台詞「心配いらないよ、あたしがいるもん。あたしが全部守ってあげるよ。守ってあげる!」。
表情といい言い方といい、まさに母性の塊。そして自分よりはるかに年下の女子高生(しかも初対面)にいきなりこんなことを言われて「…?」と戸惑う羽村先生もツボです。
羽村先生こと真田広之さんは、もちろん容姿はめちゃくちゃかっこいいのだけど、この時点では表情や言動一つ一つがどことなく幼くて、母性本能をくすぐる雰囲気があふれているなあとしみじみ。
これはもう、繭のように大人びている上に茶目っ気のある女子にはたまらないことでしょうね。繭は間違いなく「同級生の男子はガキばっかりで相手にならない」タイプかと。(いや、そもそも女子高だっけ…)
1話冒頭でさらっと描かれているけれど、おそらくは羽村が思っている以上に、繭は「信じてもらえた」ことが嬉しかったのではないかと思います。後々分かってくることですが、繭は普通の女の子とは違い、すでに年齢不相応のさまざまなものを抱えている。
人に信用してもらう、という経験は言うまでもなくとても大事なことで、特殊な環境下に置かれて育ってきた繭にとっては、そういう成長の糧になるようなものが人一倍不足していたのかもしれません。
羽村の靴箱に入っていた手紙「助けて」
第1話にして唐突に登場する謎の手紙。文面はたったの一言「助けて」のみ。
不穏です。不気味です。得体の知れない、見当もつかない対象に対して多くの人が抱くであろう不安感が、このドラマではあらゆる表現で小出しにされていて、だからこそ、登場人物が笑顔を作っていても視聴者側はつい深読みしてしまう。先を期待させられる。
最も、手紙を受け取った羽村自身は「…?まあいいか…」くらいの軽いリアクションでしたが…笑
持ち前のちょっと頼りなげな雰囲気に加えて、こういった物事をあまり深く受け止めない淡白なところがある男性が主人公であるからこそ、今後の展開により面白みが出てくるのかもしれません。
教師のマンションの部屋に堂々と上がり込む女子高生
わざわざ言及するのも野暮なのかなと思いましたが、ここはまあ、時代ですよね…。
一昔前のドラマにはありがちな展開ですが、現在ならば普通に犯罪モノです。(主に羽村先生側が。)
さらには、そこに威風堂々と登場する羽村の婚約者の存在感。
羽村はこの時点では彼女と結婚して「幸せな家庭」を作っていく気満々で、だからこそ繭に対してある種の余裕のようなものを持っています。
感情面で、というよりは倫理面から、繭と自分にはこれ以上深く関わる余地はないと疑っていないからこそ、飄々とした態度をとることができる。この先に続く幸福を毛の先ほども疑っていないからこそ、繭の必死さの理由を見極めようとさえしない。
ただ、これは決して羽村が非情であるからというわけではありません。どちらかと言えば、満たされた世界を生きている人間に特有の視野の狭さが原因と言えるでしょう。
…最もこの婚約者の彼女もなかなかの曲者なわけですが、それはまた追々。
第1話見どころ
第1話にて、個人的に最も印象に残った羽村先生モノローグがこちら。
「平凡、それこそが僕の理想だ。優しい時の流れは、いつもそこに用意されているのだから…」
わ、分かりやすい…
上記の台詞がまさしく、羽村先生の人物像をはっきり表していると思います。
成績優秀で親の敷いたレールを外れたことが無くて、「平凡」をこよなく愛する小市民的男性像ですね。
この羽村先生が今後どんな変貌を遂げていくのかというところが、今後の最大の見どころと言えるのではないでしょうか。
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