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鈴木光司『らせん』感想 『リング2』との違いは?「リング」シリーズの1つの世界線

『らせん』を今さらながら読みました。鈴木光司さんの名作であり、日本のサスペンスホラーの金字塔である「リング」シリーズのもととなった小説です。

 

映画は見ていたし、貞子の呪いと言われるビデオテープが云々もなんとな~くは知っていたのですが、この『らせん』に関しては、ストーリーの流れが「リング」シリーズの世界線とは若干違ったりもするんですよね。


ドラマ、映画、漫画などあらゆる媒体で楽しまれている本作ですが、個人的にはやはりこういうのは原作が一番ではないかなと思ったりもします。


というわけで今回は『らせん』の感想を、映画やドラマと比較しつつまとめました。

 

 

 

 

 

『らせん』あらすじ

■東京都監察医安藤満は、不注意から我が子を死なせた自責に苛まれる日々を過ごしていた。ある日、彼は変死した友人・高山竜司の解剖を担当する。死因は、心臓近くの冠動脈に発生した肉腫によって、血流が停止したことによる心不全。解剖が終わり、安藤は胃の内容物に「不審な物」が混ざっていると報告を受ける。その紙片には、暗号らしき数列が書かれていた。

■その後暗号を不審に思った安藤は、監察医務院にやってきた高山の元助手・高野舞から、高山は死の直前、記者の浅川和行という男と共に「見ると死ぬ呪いのビデオ」の調査を行っていたことを知る。だが、その浅川も後日に妻子を失い、自らも廃人同様になっていた。やがて安藤は、浅川が遺していた「一連の事件に関する手記」を手に入れ、仲間の医師・宮下と共に調査に乗り出す。

引用元:Wikipedia

 

「リング」シリーズにくわしい人ならお気づきかと思いますが、『らせん』は小説「リング」の後日談を描いた内容となっています。

「リング」シリーズといえばやはり映画版が一番メジャーな媒体として親しまれている気がしますが、映画ではおそらくは映像映えのためか、本作のホラー要素がこれでもかとばかりピックアップされているので、原作とはだいぶ印象が変わっています。


そのため、映画版だけ見た!という人からすれば、ん?前作とどう繋がってるのか分からない…と感じる可能性もありますが、個人的にはちょっとした矛盾など気にせず「ちょっとズレた世界線」みたいな感じでゆるく楽しむのが一番なのかなと思います。どの媒体にしても、軸になっている部分の面白さは間違いないので。

単純にホラー小説としても楽しめますし、医学小説としてもなかなか本格的に描かれているので人によって幅広い読み方ができるのも1つの魅力です。

 

 

『らせん』と『リング2』の違いは?

小説「らせん」のストーリーは、あくまで主人公の医師 安藤の視点がメインで進んでいきます。
一方で『リング2』における主人公は、『らせん』で死亡したはずの高野舞。恋人である竜司の死の真相を探る彼女の視点がメインとなっています。

 

リング2』は原作『らせん』と比べると小さな矛盾や事実関係のずれ、食い違いが多々ありますが、映像作品としての迫力を考えるとこれらの改変は納得できます。

ただ、原作小説に漂う「ホラー要素」以外の恐ろしさを考えると、やはり小説「らせん」の「お医者さん」視点で描かれた世界のほうが個人的には好きだったりします。
心霊的な怖さ…というより、あくまで「人間の怖さ」なんですよね。原作は。


山村貞子は怨念に満ちた霊的存在などではなく、あくまで一般的な1人の女性であり、だからこその怖さがあります。
その部分がより効果的に描かれているのは、ホラー要素は控えめといえども、やはり原作のほうではないかと思います。

 

 

『らせん』感想

上述した通り「らせん」の主人公は安藤というお医者さん。

解剖検視官である彼は、相当のテクニックと神経を兼ね備えた人物でありいわゆる「仕事がデキる人」。
医者の視点がメインなため、内容もおのずとオカルト要素は薄めで、代わりに謎のウイルス、遺伝子の秘密を探るという科学的要素が強くなっています。


ここ、主人公がそもそも霊的存在に対する知見がほとんどないからこそ、ストーリーのぞわっとする怖さが際立っている気がしますね。「信じない」人があくまで科学的な調査にもとづいて理性的に「真相」に近づいていく感じが。

 

デキるお医者さんな安藤ですが、内面は息子の死にまつわるトラウマでズタボロ。そんな中、高野舞という女性に出会ってしまいます。

 

ウイルスの特徴、増殖。
オマジナイ。ダビングして、コピーを作ること。(本文より)


高野舞は、ウイルスの増殖を目的とした「コピー」のために利用されたということなのでしょうか。
呪いのビデオを見てしまい、貞子を処女受胎し、産み落とした。


要は貞子に「呪われて」、巻き込まれただけの被害者なのか…と思いきや、本作における黒幕は実は貞子ではありません。
貞子をさらに「操っている」人物が、他にいる。


この部分の真相を、著者は俯瞰の視点で淡々と描き出しています。

「ひとりの人間が死に、ひとりの山村貞子が生まれる。プラスマイナスゼロだ。何も問題はない」

俯瞰とは、いわゆる神様の視点でもあります。「黒幕」こと竜司は、神になりたかったのでしょうか。
山村貞子を利用し、人類の「進化」をコントロールすることに楽しみを見出していた? いや、人類というよりは生物界全般を新たに「デザイン」するといったほうが正しいでしょう。

しかしながらそれは同時に、再生を願う貞子に利用されるということにもなるはず。
単純な利害関係というよりは、さまざまな思惑が偶然(必然?)合致してしまったがゆえの結果という印象を受けました。

 

ちなみに高野舞の死の真相については、『らせん』を読む前に「バースデイ」を読んだほうがよりわかりやすいかと思います。

何にせよ「リング」シリーズの世界は、あらゆる世界線がいろんな面でちょっとずつリンクしている感じなので正直ややこしい。
だからこそ読みごたえがありますし、映画と小説、ドラマ、比べながらの楽しさも満載なのだと思いますが。

 

 

 

 

 

 

それでは、今日はこのへんで。