タイプがそれぞれ異なる複数のカップルが登場する『彼氏彼女の事情』ですが、中でも個人的に気になるのが独特の雰囲気をもつこの二人。
音楽の才能がありバンド陰陽のボーカルをつとめる芝姫一馬と、彼の義理の兄妹であり、また彼女でもある翼ちゃんの関係性は、主に本編11巻~12巻にて丁寧に描かれていますね。
今回は一馬くんとつばさちゃんカップルについて、個人の見解を語ります。
※以下ネタバレ要素あり
一馬の独特の感性はカレカノ全編通してもトップレベルだと思われる
『彼氏彼女の事情』作中では、全編を通してさまざまなカップルが登場しますが、ストーリー展開のなかで、恋人どうしの男女をとことん比較するように描かれている傾向が少なからずあるように思うのです。
たとえばメインカップルである有馬と雪野の場合、とにかく他人よりも上に立ちたいという向上心あふれる雪野の姿は、常に現実世界のなかでどこまでも現実味を帯びた形ではっきり明確に描かれています。
そして、そんな彼女と比較するように、有馬の暗く辛い精神世界が現実とははなれた抽象的な形で描かれていくのが印象的です。
では一馬とつばさの場合はどうか…と考えると、この二人の姿は基本的に抽象的かつ曖昧な描き方をされることが多いように思うんですよね。
それは、おそらくは二人とも現実とは離れた独特の精神世界をもっているからではないかと思います。
特に、常に音楽の世界を生きていて、音楽に「選ばれてしまった」一馬は典型的な芸術肌タイプで、浮世離れした雰囲気や世界観が作中ではかなり強調されているように感じます。
「このごろ視界の色まで違う 今は 赤と黒」
「なぜこんなに有馬くんに惹かれるのか 僕の中にも狂気があるからだ」
精神状態の変化により視界の色すら変わってしまう彼にはかなり危ういものを感じますが、まあそれくらいの繊細さがあってこそ、あれだけの才能と感性が育まれたと言えるのかもしれません。
一馬くんのモデルはイギリスのロックバンド・クイーンのボーカルであるフレディ・マーキュリーらしい
余談ですが、一馬のモデルはクイーンのボーカルであるフレディ・マーキュリー氏であるらしい。これ、作者があとがきにてさらっと書いていたことですが個人的にものすごく驚きました。
なんとなくワンオクのTakaさんみたいな感じなのかと思っていたのだけど、まさか外国人がモデルだとは思わず、しかもあんなトップレベルのロックバンドボーカルだとは。
そんな日本人のボーカルがリアルにいたらどれだけすごいんだろうなと妄想しつつ、どうにもリアリティがないのも事実ですが、まあ漫画だからね笑。
そして、まだ一馬の才能が開花する前にそれを見抜いていた潮さんはやはりすごいですね。個人的に、彼はバンドメンバーやるよりはプロデューサー側に徹したほうがいいんじゃないかとちょっと思ったり。
のほほんキャラに見えて実は誰より繊細な感性をもつつばさ
では、そんな一馬の恋人であるつばさちゃんのほうはどうなのかと考えると、やはり彼女は彼女でどこか「不思議な」世界観を抱えています。
普段はあえてキャラクター風に描かれているつばさですが、たとえば一馬が音楽に「呼ばれ」はじめたとき、そのことを一番に感じ取っていたのはバンドメンバーではなく、実は彼女だったのではないかと個人的には思うのです。
だからわたしは心の中では
わたしから一馬ちゃんを奪ってしまう「音楽」をしだいに憎むようになった(つばさモノローグより)
「音楽」を憎むあまり一時的に聴覚を失うことになってしまったつばさですが、この繊細さはやはり彼女自身の生い立ちにもあるのでしょう。
大好きだった父親の再婚や有馬への失恋は、納得はしたとは言え、やっぱりつばさにとっては一種のトラウマとして心に残っているはずです。
そのトラウマが爆発したのがまさに原作の12巻あたりですよね。あの辺ではメインキャラであるはずの有馬と雪野の影が極端に薄く、やっぱり『彼氏彼女の事情』というタイトルの「事情」は、まさに登場する全カップルのものなのだろうなあとあらためて認識させられた感もありました。
最終巻ではめでたく夫婦となっていた一馬とつばさ。しかし義理のきょうだいって結婚できるのね。何にしても双方がとことん苦しみぬいて手に入れた幸せですから、末永く仲良くしてほしいなと思います。
〇有馬・雪野・浅葉についての考察