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【考察】『暁のヨナ』 カシさまとヨンヒさま 過酷な運命を受け入れた二人

暁のヨナ』という作品は本当に奥深く、見る角度によって全く違った景色を見ることができたり、また誰に感情移入するかによって180度反転した読後感を得ることができたりもします。

この重厚かつ濃厚な味わいの理由は、お話が単にひとつの世代で完結しないから、というところも大きいのかなあと個人的には思うんですよね。

具体的に言えば、メインキャラクター ヨナとスウォンの親世代であるカシさまとヨンヒさま、この二人の女性の存在がとてつもない。
それぞれに重いものを背負って生きて、そして死んでいったこの二人は、はたして幸せだったのか、そして互いの存在をどう思っていたのか。

今回は私個人の所見で、いろいろと考察してみました。

 

 

 

 

カシさまとヨンヒさまについて

一見、性格・容姿は正反対

カシさまとヨンヒさまのお二人について、いろいろと突き詰めて考えていくと、実は思いのほか「共通点が少ない」という事実に思い当たります。

読んでいるときはなんとなく、「分かり合っている」「互いに思い合っている」という印象があったため、わりと”似た者同士””近い存在”みたいな認識さえあったものの、実際のところはいわば「立場・身分がある」というところ以外にはさしたる共通項が見当たらない。

 

表面的な部分、単純に容姿とか、あるいは性格とかそうした部分を考えてみても、二人はむしろ正反対のタイプと言えるのではないでしょうか。

黒髪ストレートで巫女さん特有の「神聖な強さ」みたいなイメージの強いカシさまに対し、現在でいえばゆるふわ系、髪や目の色素うすめのヨンヒさまは、どこか儚げで、見方によっちゃちょっと弱々しいような雰囲気を備えています。

 

ここが、ちょっと不思議なんですよね…

どこからどうみても「似ていない」二人なのに、そして立場だけを見ればむしろ敵対していてもおかしくはないくらいの間柄なのに、読んだあとに「あ、やっぱ似た二人だなあ」とたしかに思える”何か”がある。

それはおそらく、大きな目で見れば、この二人が生前に戦ってきたもの、果敢に立ち向かってきた「相手」が共通しているからと言えるのかもしれません。


それは他でもない紅龍王と、四龍伝説。

これがなければ… 

これさえ、なければ。

案外この二人こそ、ヨナやスウォン以上に「巻き込まれた犠牲者」と言えるのかもしれませんね。

 

互いにどう思っていたのか

カシとヨンヒについて、この二人が互いに憎みあっていたとは思いませんが、しかし完全に分かり合っていたとは決して言えないのではないかと思います。

二人ともいわゆる賢い女性で、だから私情とか私怨とかそんなものに左右されるようなことはなかったと思うのだけどでもやはり完璧に割り切れない部分も多少はあったんじゃないかと思うのです。

 

ヨンヒさまは遺した手記に、それでも私はあの子(スウォン)のことが可愛い、との旨を記していましたが、カシさまにしてもそれは同じで、やはり何より大事だったのは娘のヨナの存在だったでしょう。
カシさまは自分の死後、娘とスウォンとが敵対することを、いったいどこまで察していたのか。

いやつくづく、生まれや育ち、立場や身分、そんなものでは幸せにはなれないということをこの二人は作中の誰よりも体現しているような気がしますね。

 

 

 

二人とも「過酷な運命」をまっすぐ受け入れている

はたから見たら、はたしてどちらの立場のほうが生きやすいと言えるのでしょうか。

いずれは病気で若くして死ぬ、と分かっていたヨンヒさまと、持ち前の予知能力で自分の死期や死後の展開、娘ヨナの過酷な生涯をうっすらとは予感していたであろうカシさま。

過酷な運命に抗おうとはせず、ひたすら受け入れて苦しんできた…という感じが両者ともにあります。
つまりはどっちがマシとかそういう見方はできないし、しても仕方ないのだけども…

 

 



ただカシさまのほうは生まれ持った不思議な力?を完全に受け入れて、そのうえで与えられた運命に向き合っている気がするけれど、ヨンヒさまのほうは、どちらかというと「普通の人」の感覚を最期まで失っていないように思うんですよね。よくも悪くも。

彼女はあくまで大きな病気と大変な運命を抱えてしまった、ただの不幸な女性…という感じがあります。

しかしヨンヒさまがイル王に向けた手紙(手記に挟まってたやつ)の存在により、そんな印象は一変します。


「夫の仇」であるイル王に、あんな内容の手紙を送ることができるのは本当にすごいと思う。ここはまさに「強い」の一言では形容しきれないものがあります。


もしカシさまがこの立場だったなら、彼女にこんな真似ができただろうか…と思うと、そこは正直わからない。

結局ヨンヒさまに比べると、カシさまに関するモノローグ的な部分ってすごく少ないんですよね。そのせいもあってか、どこかつかみきれない印象も拭えません。

表面的なところだけを見れば、カシさまは生まれ持った能力も相まってものすごく「肝の据わった」印象があり、一方ヨンヒさまは「弱さ」や「痛み」「病」、そしてそれにともなう運命を受け入れる「静かな」強さを併せ持っているという感じがありますね。

動と静のバランスーーとでもいうのでしょうか。ぴんと張った糸みたいに張り詰めた精神の均衡。見ていて息が詰まります。

 

何にしても、この2人の血を受け継いだヨナとスウォン、現世代の今後の動きが楽しみでしかたないですね。次話も楽しみに待ちたいと思います。

 

 

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それでは、今日はこのへんで。