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映画『リリーシュシュのすべて』劇中歌 飛べない翼/Lily Chou-Chou(Salyu)はやはり神がかっている

ザ・鬱映画と言われている映画『リリーシュシュのすべて』、皆さんは見たことありますでしょうか。


中二病だなんだと否定する声もありますが、私はなんだかんだですごく好きです。
単に岩井俊二監督作品が好きだというのもありますが、あの映画はやはり何より劇中歌がほんとうに神がかっていると思う。

Lily Chou-ChouことSalyuが歌う劇中歌で私が一番好きなのはやっぱり『飛べない翼』です。


好きだけど、好きすぎて聴くたびに気持ちが映画のあの世界にずっぷり沈んでしまうので、大げさじゃなく年に何回かしか聴けないというジレンマ。


今回は『飛べない翼』の魅力を、映画『リリーシュシュのすべて』の内容と合わせてまとめてみました。

 

 

 

 

映画『リリーシュシュのすべて』かんたんあらすじ

 

田園の広がる地方都市で暮らす中学生の蓮見雄一は、同級生の星野修介に万引きなどの犯罪行為を強要され、鬱屈とした日々を送っていた。唯一の救いはカリスマ的な人気を持つ女性歌手、リリイ・シュシュの曲を聞くこと。(Wikipediaより)

 

 

万引き、いじめ、売春、援交、強姦…
のどかな田園風景の中にはびこるさまざまな犯罪行為。


作中には綺麗なものなんて何ひとつ無いのに、それでもストーリーを追っていくと時々驚くほど「綺麗だ」と感じさせてくれる瞬間がスクリーンの中にたしかにあります。
いや、ほんとうに不思議な作品だなあと毎度毎度感服しながらみています。

 

『飛べない翼』Lily Chou-Chouとして歌うSalyu

『リリーシュシュのすべて』作中では、シンガーソングライターSalyuさんが数十曲の劇中歌を歌っている。
Salyuとしてではなく、あくまで映画内に登場する架空の歌手リリー・シュシュとして、というのが何とも面白いし、個人的にはこの設定が当作品の魅力のひとつなんじゃないかなと思う。


私はSalyuという歌手の、あの絶妙な声質、人間の声というよりまるで楽器みたいな音色がものすごく好きなのだけど、やっぱりSalyuとしての歌い方と、リリーシュシュとしての歌い方のあいだには、比較できないくらいに大きな何かがあるような気がする。


どちらが良いとか悪いとかではなく、何というか単純に「別物」という感じがする。まあSalyuが「リリーシュシュ」という架空の人物を演じて歌っているので当たり前といえば当たり前なのだろうけど、たとえその設定を知らない人にも「違う」と感じさせるくらいの差異が明確に存在するのは、やっぱりすごい。


憑依型の俳優さんのことをカメレオン俳優、とか言うけれど、この映画におけるSalyuはまさに「カメレオン歌手」と呼んでいいと思う。


作中に流れるSalyuもといリリーシュシュの声には、歌には、明らかにSalyu本人とは違う人の魂が宿っている。
私は『リリーシュシュのすべて』の劇中歌をSalyuが自身のコンサートで「Salyuとして」歌う映像も見たことがあるし音声も聴いたことがあるけれど、やっぱりその歌は、映画をみて感動したとき聴いたあの歌とは別物だった。繰り返すけれどどちらが良い悪いではなくて、あくまで単純に「違うもの」だった。


『飛べない翼』は、その「違い」をくっきりと感じさせてくれる最たる曲ではないかと個人的には思う。


「リリーシュシュ」としてこの歌を歌っているSalyuの声のかすれ感、沈み込んでいくような陰鬱な響き、語尾が薄く消えていくみたいな儚げな雰囲気、そして歌詞、どの要素をとっても映画の世界観をそのまま反映したみたいな真っ暗な閉塞感が伝わってくるのに、そこにはなぜか謎の「爽快感」が同居している。陰鬱さとはまるで真逆の「心地よさ」さえ感じられる。


歌詞の中のワンフレーズ「機嫌直して生きよう」が、個人的には特に好きだ。
これは歌詞の中で唯一「前向き」なフレーズで、それなのにここを歌うSalyuの声を聴くとなぜだかはっきりと「痛み」を感じる。


人生で何かがつらいとき、その辛さに浸ってつらいつらいと言いつづけることは実はとても簡単で、でもそこから「機嫌直して」やり直そうと立ち上がる瞬間が、実際は一番つらい。
それを知っている人にはきっとものすごく響く歌詞だと思うし、この歌はたぶん、そういう歌なんだろうと思う。

この映画も、この歌も、すごく好きだからこそ、たまにしか聴けない。
聴いたら否応なくあの暗くて憂鬱ででも綺麗な世界にぐいぐい引っ張られていってしまうので、その覚悟がないかぎりは聴くことができない。


観たい、聴きたいと思いながら、でも本当に好きな作品の引力ってほんとうにものすごいので、覚悟なしに気楽に足を踏み入れることは絶対にできない。


そういう作品に、たぶんどんな人も人生に一度や二度くらいは出逢えるんじゃないでしょうか…?


『飛べない翼』、なぜか今日どうしても聴きたくなって聴いてしまった。

次に聴くのはたぶん、半年か一年後くらいだろうなあ。

 

 

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