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【岩井俊二監督作品】映画『花とアリス』ネタバレ感想 宮本先輩の立ち位置を考える

岩井俊二監督作品全般がとても好きで、定期的に観ておきたくなってしまう作品がいくつもあるけれど、中でも『花とアリス』は別格の甘酸っぱさ、みずみずしさがあって別格だよなぁと思っています。花もアリスも可愛いが個人的には宮本先輩が一番可愛いと思う。

今回は花とアリス、そして彼女たちに振り回される宮本先輩について個人の所感を書いています。

 

 

 

 

花とアリスの友情

一言で言えば「恋愛に憧れる女子高生2人がきゃっきゃしている」だけのこの映画がなぜこんなに面白いのか…
それはおそらく、メインキャラである2人、花とアリスのあいだに存在する友情や信頼関係、思いやりといったさまざまな要素がものすごく強いからなのではないかと思う。


いわゆる三角関係を描いているラブコメ作品だと、どうしても作中で女性のイヤな部分みたいな要素がフォーカスされがちで、
さらにはストーリーが進むにつれ、必ずといっていいほど「視聴者側に嫌われる」キャラクターが出てくるものではないかと思うのだけど、『花とアリス』においてはそういう展開があまり見られない。



記憶喪失の先輩(しかも偽造…)につきまとう花、そしてその先輩に好かれてしまうアリスという、冷静に見るとなかなかにめちゃくちゃな展開ではあるのだけれど、
それをあくまで楽しんで見ていられるのはやはり、これだけ分かり合っている花とアリスが恋愛のあれこれくらいで本格的に嫌い合ったりはしないだろう…という絶対的な安心感が物語のベースに存在するからではないだろうか。

 

宮本先輩は実際のところ脇役だと思う

この映画が好きな人の中には「2人に挟まれる形になった宮本先輩がはっきりしないから嫌い」「宮本先輩の真意がわからない」といった意見もわりと多いと聞く。


まぁやはり「三角関係の話」という視点で捉えるならばそういった感想も出てくるのは仕方ないのかなあと思うが、
この映画の性質を考えると、宮本先輩をそういう視点から責めるのはちょっとかわいそうではないだろうかと個人的には思ったり思わなかったり。

 

というのは、私はこの映画は基本的には三角関係を描いたものではなく「女同士の友情」の話であると認識していて、宮本先輩はどちらかと言えば”巻き込まれた可哀そうな人”という立ち位置なんじゃないかと感じていたので、
そんな彼に対して「どちらが好きなのか」「結局花とアリスどっちなのか男らしくはっきり選べ」とは思わないし、
そもそも宮本先輩が「選んで」しまったら、その時点でこの作品の面白さは無くなってしまうんじゃないかとも思うのでね。

 

”かわいそうな人”扱いしておいて何だけれど、正直なところ宮本先輩自身はかなりいい男なんじゃないかなとも思う。記憶喪失(偽造)の真実に気づいても大して怒らないし、飄々とした穏やかな態度をどこまでも崩さない上にそもそも佇まいが普通にかっこいい。


こういう人が花とアリスの間で板挟みになって、いわゆる脇役に徹してくれているからこそ、女子二人の友情要素がよりきらきらして見えるのではないかなぁと。

 

 

 

母と娘の関係性

「女の友情」が『花とアリス』の表テーマであるとすれば、裏テーマは「母娘の関係性」なのではないだろうか。

アリスの母親は正直「母親であることよりも女であることを優先している」女性であると思う。…が、作中でアリスがその点で母親を責めたりするような場面は一切見られない。
まあしょうがないな…こういう人だし」みたいな諦観が彼女の中にはずっと存在していて、
それによる鬱屈とか鬱憤が絶え間なく溜まりつづけて停滞していて、その感覚は、離婚して離れていった父親に会うときもきっと変わらないのだろう。


だからこそアリスは、幼少時の幸せな記憶を人一倍大事にしている。

それは作中にて、例のトランプの件をきっかけに、視聴者側にもはっきりと示される。

 

楽しかった記憶が幻じゃなかった…ということがはっきり分かっただけで、あれだけぼろぼろ泣いてしまうくらいの圧倒的な孤独感がアリスの中にはあって、それはおそらく視聴者だけにではなく、宮本先輩にも伝わっていたと思う。


作中にて宮本先輩は結局どちらも「選ばなかった」けれど、彼は内心、どちらかと言えば花よりもアリスのほうに強く惹かれていたのではないのかなと私は思う。
アリスのほうが好みだった…とかいう話ではなく、単純に彼女のほうが、自分について知りたいと思わせる力が強かったのではないかと。

また、作中にて花のほうは終始 宮本先輩を追っているばかりの印象だったのに比べ、
アリスのほうは花と宮本先輩、それから自分の母親の恋愛、父親との再会、さらには始めたばかりの芸能活動…と、とにかく向き合うべきことが多かった。

だからこその陰のある魅力みたいな部分が作中ではここぞとばかりに強調されていて、そこがまた映画自体の魅力にもなっているのがとても良い。

 

ラストの、オーディションでバレエを踊るシーンはまさに象徴的だと思う。

あれは単にバレエが上手いから踊れる踊りというより、アリスだからこそできた表現に他ならないのではないだろうか。紙コップを使って即興で作ったバレエシューズににじむ素朴さや不安定さ、泥臭さが、今の彼女をそのままあらわしているようで素敵だった。

そしてそれを完璧に表現してみせる蒼井優さんはやっぱり素晴らしい。


いろんなことが完璧には解決しないまま、それでも最終的には花との距離が元通りになってめでたし…というちょっと曖昧な感じの終わり方が個人的にはすごく好きなのです。
リアルだな…と感じられるのがいいし、何よりこれぞ岩井俊二監督作品!という感じがあって和んでしまう。

 

花とアリス』は高校生視点の話ではあるけれど、内容を考えると大人にもぐさぐさ刺さる映画だなあと思う。ちょっとした青春気分を味わいたいときにまた観たい。


花とアリス殺人事件』と合わせて見るとより楽しめるのでおすすめです。

 

 

 

 

岩井俊二監督作品『リリイシュシュのすべて』も好きです。
ひたすら重いが見ごたえあり

itono-tono.hatenablog.com

 

それでは、今日はこのへんで。